想うままひとり暮らし

16才から始めたひとり暮らし、60代になった今もこれからも

復路便

あの日、大空の中の飛行機を目で追っていた。

本を読んでいると、
最初の頃の断片的な事柄が、
後半にどんどん繋がって行って面白くなる。
60年以上生きていると、自分が登場人物になり、
その面白さをリアルに味わえるようになる。

弟(義兄の)に初めて会ったのは、
姉の結婚が決まった時だ。
なぜか、私の実家に兄弟ふたりでやって来た。
背が高くて、2人共今で言う所のイケメンで、
スーツ姿だとますます輝いて見えた。
とくに弟(義兄の)の方は、
地元で一番の高校を卒業し、東北の有名大学を出て、
東京に就職・・順風満帆の真っ只中にいた。
私はと言えば、新卒で就職した会社を一年も経たずに辞め、
一時実家に戻り、燻っている時だった。
弟(義兄の)と私は、光と影。
影にとって、光は眩しく、嫌悪感と共に、
憧れというか恋心が芽生えた。

その後、離婚や会社の倒産という、
光の彼には相応しくない試練があった。
でも、結婚する気のなかった彼が、
17才も下の人に惚れられ再婚に至ったのは、
若い頃からの魅力が残っていたからだろう。
東京を離れ、地元に戻って来るとは思ってもみなかった・・

彼と実際に会った回数は、
冠婚葬祭の時だけだから、5回くらいだ。
親戚ということと、会う度によく話をしていたので、
近しい人のような感覚だった。
(もう恋心は残っていない)

彼は、知らない。
東京に戻るというあの日、
飛行機が通過する時間に、空を見上げていたことを。
白い雲が浮かんだ青い空、あの"飛行機"は、
飛び去って戻ることは無いと思っていた。