あの日、大空の中の飛行機を目で追っていた。
本を読んでいると、
最初の頃の断片的な事柄が、
後半にどんどん繋がって行って面白くなる。
60年以上生きていると、自分が登場人物になり、
その面白さをリアルに味わえるようになる。
弟(義兄の)に初めて会ったのは、
姉の結婚が決まった時だ。
なぜか、私の実家に兄弟ふたりでやって来た。
背が高くて、2人共今で言う所のイケメンで、
スーツ姿だとますます輝いて見えた。
とくに弟(義兄の)の方は、
地元で一番の高校を卒業し、東北の有名大学を出て、
東京に就職・・順風満帆の真っ只中にいた。
私はと言えば、新卒で就職した会社を一年も経たずに辞め、
一時実家に戻り、燻っている時だった。
弟(義兄の)と私は、光と影。
影にとって、光は眩しく、嫌悪感と共に、
憧れというか恋心が芽生えた。
その後、離婚や会社の倒産という、
光の彼には相応しくない試練があった。
でも、結婚する気のなかった彼が、
17才も下の人に惚れられ再婚に至ったのは、
若い頃からの魅力が残っていたからだろう。
東京を離れ、地元に戻って来るとは思ってもみなかった・・
彼と実際に会った回数は、
冠婚葬祭の時だけだから、5回くらいだ。
親戚ということと、会う度によく話をしていたので、
近しい人のような感覚だった。
(もう恋心は残っていない)
彼は、知らない。
東京に戻るというあの日、
飛行機が通過する時間に、空を見上げていたことを。
白い雲が浮かんだ青い空、あの"飛行機"は、
飛び去って戻ることは無いと思っていた。