想うままひとり暮らし

16才から始めたひとり暮らし、60代になった今もこれからも

夜の電車

絵に描いたなら、8割ほどが漆黒の空。
線路の向こうと、
後方の駅舎の向こうに
家々の明かりが、ぽつんぽつんと見えるから、
人はいるのだと安心する。

この景色、葉祥明の描く絵に似てる。
でも、星が一つも出ていなくて、
メルヘンチックとかそんなかわいい絵じゃない。
星空だったなら、銀河鉄道999が見えるかも、と思う。
今夜はむしろ、千と千尋のあの電車が来そうな感じだ。

限りなく音を消したなら、
こんな感じなのだろうと思うくらいの静けさだった。
時々、国道の方から車が走り去る音がする。
それが聞こえなくなったら、
またドーンとした静けさだ。

そんな暗くて、静かなホームで
ひとり電車を待っていた。

時々、誰か来ないかと期待して振り返ってはみるけれど、
誰もいない。
だんだん静けさを愉しむというより、怖くなってくる。
お化けが出そうとかじゃなく、
待つ人のいない遠くの街に独りで、
車で向かう旅の怖さに似ている。

少し遠くの踏切の、遮断機の下りる音が
コンコン、コンコンと忙しく鳴り出した。
小さな明るい光が、だんだん電車の形になって
近づいて来た。
そして一両だけの車両のドアが、開いた。