玄関前にスチロールの箱があった。
置き配なんて頼んでいない。
ちょっと気味悪かった。
よく見ると、隣の部屋の人が置いて行ったものだった。
ここは今は少なくなった外階段があるアパートで、
冬になると階段から廊下にかけて雪が積もる。
私の部屋の場所はとくに雪が積もる位置にある。
3階から地上に雪を落とすと、向かいの棟の住人が、
落とした雪も除雪、つまり融雪溝に入れろと苦情を言ってくる。
車を持っていない住人は、車庫前を除雪する必要が無い。
だから、車通勤しているその住人は、
自分だけが除雪していると怒っているのだ。
私は車を持っていないので、
本来なら、玄関前や廊下と階段だけ除雪すればいいはず。
でも、苦情を言われたくないばかりに、
私が使用する階段や廊下から雪を落とし、
地上に落ちた雪を融雪溝に入れるという作業を
小さな除雪用スコップで行っている。
私の部屋は3階なので、
ここの棟の人のほぼ全ての道は、それで確保されることになる。
隣の人の玄関前は、”ついでに”行っていただけだった。
その箱の中身は、お礼の手紙・野菜やみかんだった。
あまりいい印象の無い人だったが、
文字も文面もちゃんとしていて、意外だった。
ここに引っ越してから、6年。
向かいの棟のように小まめに除雪する人がいないから、
階段が雪に埋まって危険な状態になることが多かった。
ここの棟でたぶん一番年寄りの私が、しかも女の私が、
見るに見かねてときどき除雪をしていたのだった。
今回は、大雪ということもあり、ホントに大変だった。
誰も見ていない、誰も気づいていないと思っていたが、
予想外のことで、ちょっとうれしかった。