想うままひとり暮らし

16才から始めたひとり暮らし、60代になった今もこれからも

バーバリーの赤いコートは手放せない

課長が、健康上の理由で退職すると聞いた。
入社してまだ3か月くらいしか経っていないのに。
全く、人の出入りが激しく安定しない会社だ……

片づけが大好きで
断捨離もし尽くした感がある私だが、
手放せないものがたった1つある。
バーバリーの赤いコートだ。20年前、母に買って貰った。
価格は10万円位だったと思う。

あれは、長く勤めた会社を辞めたばかりで、
まだ金銭感覚が今と大きく違っていた頃だ。
今なら、アウター1万円は、平気で着られるのに、
あの時は、4万円台でも安過ぎて、
恥ずかしくて着れないという独身貴族感覚から
抜け出せないでいた。
そのコートは、無職で無収入になった元独身貴族の娘の私に
母が買ってくれたものだった。

長く勤めたあの会社、あそこも今の職場と同じように
人の出入りの激しい会社だった。
急激な成長に追い付いていけず、
安心して仕事をしていける環境ではなく、
変化に対応すべく、いつもバタバタしていた。
それでも、バブルがあったりして、
数十万のボーナスが数か月ごとに貰えた。
使っても使っても入ってくるという異常さに慣れ、
値段を見ないで買い物するような
可笑しな金銭感覚になってしまった。

退職し、その感覚が元に戻らないまま、
雇用保険を貰う生活に入った時に
母が買ってくれたバーバリーの赤いコート。
今、あの時の会社のようなところで働いている。
これは、会社が発展する過渡期だからなのだと
思うようにしている。
変化する間の象徴として、深い思い入れがあり、
また母の気持ちも思うと、どうしても手放せない。
バーバリーの赤いコートは、
ずっとクローゼットの端っこに吊るしたままだ。