想うままひとり暮らし

16才から始めたひとり暮らし、60代になった今もこれからも

ぼやかした別れの方がいい時

昔、行きつけのお店の人に
別れて会わなくなった彼が結婚したのなら
「転勤した」と連絡がほしいと頼んだことがある。
ある日電話が来て、「転勤した」と教えてくれた。
でも続けて「実は結婚した」と真実を教えてくれた。
私は正座して受話器を持ったまま泣いた。

はっきりと言わない別れの方がいい時だってある。

私が午後1時で帰ると言うと、「寂しい」と言う入居者の方々。
早番で私がいると喜び「安心する」と腕を掴む奥様。
私が辞めることはまだ知らないのに、
メインの職場のK住宅でも、兼任のM住宅でも
私がいることを喜び、「ずっと居て」と言われる。
まるで引き留めるために、
果物やお菓子やいろいろな物をくれる。
一ヶ月後に辞める私は、後ろめたくて堪らない。

歳を取ると、誰でも不安になり、誰かを頼りたくなる。
いつもいた人がいなくなるというのは、
どんな人でも、寂しくなるものだ。
まして、世話をしてくれて頼っていた人が
いなくなるというのは、どんなに不安なことか。
入居者さんのために尽くしてきた分だけ、
その不安を大きくしてしまうことになるかも。
他のコンシェルジュのように、
もっとクールに放っておいた方が
自分の負担も少なく、入居者にとっても
良かったのかもしれない。

お別れを言っても大丈夫な方には、
突然消えるようにいなくなるより、
最後の日には、ちゃんと挨拶をしようと思う。
大丈夫じゃない方には、
来月から…もしかしたら来ることがあるかもしれないけれど、
他の住宅勤務になるので、ここには来ない…と
そんなぼやかしたお別れの挨拶をしよう。

60代は発想の転換期

退職が決まってから、退職後の生活をイメージしている。
朝起きて、出かける予定の無い日が続くのは嫌だし、
貯金が減る一方の生活も嫌だ。
今度はどんな仕事をしようか、
どんな人と出会えるか愉しみにしている。
(今のサ高住の入居者と会えなくなるのは寂しいが…)

定年退職して、悠々自適な生活をする、
というのは、幸せな老後だろうか?
サ高住で働いて、そういう方々の暮らしを見ていると
どうもそういう気がしないのだ。
お金の不安が無い、出かけるといえば病院、
話し相手はごく僅かで、不平不満ばかりが話題。
何の楽しみも無い同じような日の繰り返し。
そのうち介護が必要になり、施設に転居、そして・・
お金が十分にあっても、こんな老後なのだ。

私は今、本格的な年金生活をどう過ごして行こうか考えている。
年金だけじゃ生活出来ないからどう補おうかとか、
どんな職場に所属して、社会と繋がって行こうかとか、
どんなことを楽しみにしていこうかとか。

お金に関しては、発想の転換をしている。
例えば、服。
若い頃のように新しく買わない。
何を着ても、たいして似合わないし、
誰が同じ服を着ていると気付くだろう。
また、化粧品にしても、ポイントメークなら
プチプラでいいのではないか。
何千円のアイシャドウを使っても、劇的にキレイにならない。
ネットの接続料も毎月六千円近くは高過ぎないか?
スマホだけでもブログは出来るし、
Excelの家計簿は、繋がっていなくてもいいのだ。

節約の新しい気づきが出来た時、なんだかうれしい。
この感覚は若い頃には無かった。
年金生活に向けて、発送の転換が出来るようになってきている。
成長期とか思春期のように、"発想の転換期"というのがある。

期限があるのは、楽で、愉しい

気のせいかもしれないが、上司がよそよそしい。
責任者がコロコロ変わるK住宅、
スタッフが一斉に辞めたM住宅を兼任していた私を
信頼している、という態度が一変した感じ。
辞めると言い出した途端、変わった。
(それにしても、この期に及んでの時給アップは解せないが)

同僚は、まだほとんど知らない。
入居者の方は、全く知らない。
私は、最終出社日まで、入居者の方を守り、事務作業もミスなく、
手抜きしないように緊張は持ち続けていよう、と思っている。
ただ、相変わらず、自分の大きなミスを隠して、
他人の小さなミスをこれ見よがしに指摘する人に対しては、
(どうせ、もう辞めて会わないのだから)と冷めている。

辞めるとなれば、
一日でも早く辞めたいと思うものだろう。
私も退職の意思を早く示し過ぎたかな?と思った。
上司のあの態度の変化を考えると。
でも、むしろ、"来月までの勤務"と考えると、
いろんな意味で、楽で、愉しい♪
2月分までは、給料がある(2月は有休消化)
例の責任者と会うのは、一週間に一二度のシフト交代の時くらい。
(もう、長時間の重複は無いようにしている)
慣れているから、仕事上で困ることは無い。
むしろ、入社して半年にもならない責任者の方が
知らないこと、出来ないことだらけ。
でも大きなミスをしても気にしない性格だから、
やっていけるだろう。
ただ入居者の方を、死なせないでね…と思う。

理不尽な環境、嫌で嫌で堪らない環境、
ある程度、歳を取ると、それが我慢した方がいいか、
自分の我儘なのか、わかるようになる。
逃れた場合、逃れなかった場合、
お金や健康や生活の面から天秤にかけ答えを出すのだ。
次の環境への期待と不安も抱きつつ。

封書の中身 part2

帰宅すると会社から、また郵便物が届いていた。
給与明細が届く時期でもないし、
退職に関連する何かかな?と思いながら開けた。
『賃金変更通知』が入っていた。
今年になって二回目の時給アップだ。
変更理由は、「会社への貢献度、スキルを懸案して…」ということだ。
退職が決まっている人に、時給アップって、なんなのだろう。

M住宅のスタッフが一斉に退職し、
クレーマー化したM住宅の再建(?)に
少なからず貢献したと思っている。
再建後、元のメインの職場に戻ると、
新しく入った責任者が君臨していた…
今までどおりの仕事が出来なくされていた。
パソコンスキルの低い彼女は、
事務作業に大きな影響を及ぼすミスをしても、平然としている。
事務所の飾り付けや片付けが好きな、ただの主婦のよう。
でも、口調だけは、堂々とした責任者。

「私、イライラする?」と入社したばかりの頃、彼女は言った。
私は何も感じていなかったが、
たぶん、他の職場でそう言われていたのだろう。
出来ないのにわからないのに
聞く耳の無い責任者が君臨している職場で、
入居者の方々の安全を守れそうにない。
警備会社に送る重要な資料も、
メール設定が間違っていて、届いていない。
それさえも気づいていないのだろう。
教えようとすると、また、何を言い出すかわからない、
サ高住の勤務経験があるからと高評価だった彼女だが、
化けの皮が剥がれつつある。
もう、腹が立つとかイライラする、じゃなくて、気持ちが悪い。
体調が悪くなくても、彼女から離れることを決めただろう。
ああいう人をポンと責任者として採用してしまう会社。
もう辞める人の賃金アップをしてしまう会社。

私は今、個人事業主の感覚で職場に行っている。

消えたかかりつけ医の謎

被せたところが剥がれたのを放置していて、
過去に一年半、通院回数74回で
なんとか残した一本の歯がある。
根に膿がたまり、歯茎の外にまで出来物が出来た。
歯医者に行った時には、
普通の歯医者だったら抜いてお終いになるくらいだった。
H先生は、根気強く治療し
私も根気よく通い、残した歯だった。

去年の秋、知らない歯科医院から、
開院のハガキが届いた。
かかりつけ医の病院と同じ住所だった。
あの病院は、どうしたの?
閉院の知らせも届いていない。
定期検診の予約の電話をかけても、
繋がらないという状態も続いていたが・・・?

長く通っていた歯科医院、
高価な機材を購入したばかりだったのに、
突然閉めるなんてことがあるだろうか?
名前が違うだけで
間取りも、窓から見える景色も、治療機材も、
前と同じままで、迎える人間だけが違う病院。

あの先生は、どうしたの???

放置しておくと、せっかく残した歯を
失いかねないので、勇気を出して電話した。
今月の末に予約が取れた。
予約を入れるのを躊躇っていたのは、
あの先生の消息を知るのが怖かったせいもある。
どうしても、その話になるだろう、
いや、どうしても聞きたい。
コロナで経営が破綻したのか、
先生自身が、亡くなったのか・・・

でもやはり、知るのは怖い。

グレーな職場の因子

辞めることが決まっても、まだ実感が無い。
最終出社日が1月末だからかもしれない。
義務感だけで、心が離れた職場に向かっている。
私が退職することを知らない入居者の方から
頼られ喜ばれしていると、後ろめたさを感じる。
最後の日が近くなったら、一部の方には挨拶をしようと思う。
でも、はっきりと言えない方もいる。
朝、私がいると「安心する」と
すがるような表情される奥様とか…
入居してから、ご主人と共にいろいろなことがあり、
深く関わってきたご夫婦。

高齢者は、別れに弱い。
ただでさえ、出会うことより、別ればかりが多い年代。
頼ってきた者がいなくなることの不安は、
若い人の何倍も大きい。
だから、一部の方々には、
ここには来ないが、他の住宅で勤務していて、
また会うことがあるかもしれない…
という"別れ"にしようと思っている。

退職届を出してから、
今まで親しげだった部長や上司が冷たくなった。
同僚はまだ知らない人が多いが
少しずつ噂が広がっているようだ。
ムカつくことがあっても、
(どうせ、辞めるのだ、もう少しの我慢)と心の中で呟く。
何も知らない入居者は、「(私の名前)ちゃん」と呼び私を頼る。
一方、入居者に頼られなくても、好かれていなくても、
本人が辞めると言わないから残るスタッフ。
考えてみれば、どこの会社でも、
長く勤務している人というのは、
仕事が出来る人というのではなく、
(転職する能力か勇気が無く)"辞めない人"なのではないか?
今まで働いた職場を振り返り、そう思う。
辞めない人が、後から入る人を追い出し、
辞めない人ばかりの職場を維持している。
グレーな会社はグレーのまま。

700円と〇億円の世界

こんなに差し入れが多い職場ってあるだろうか?
私だけ頂いているのか?(他の人も??)
多い時は、サブバッグがびっしりになる…
その中でも、他の人に見られないように、
お菓子を持って来る男性入居者がいる。
彼は、業界新聞のトップを引退したばかりで
引退前からお坊さんもやっている。
その人は相変わらず兼任しているM住宅の住人で、
私の顔が見えると、とくに喜んでくれるのはいいのだが・・

妙に私を気に入って、
後妻や愛人ではないけれど、
余生を過ごすパートナーという妄想を抱いているようだ。
「なかなか前へ進めないね」
「地位もお金も要らない」
「(有り余っているお金は)君と僕との…」
80代で耳が遠いから、自分の言いたいことだけを話す。
いい加減呆れて、笑ってその場を凌ぐしかない。

来年2月には退職することを、まだ誰にも言ってない。
3月から収入が激減するかもしれないから、
今は、節約とポイ活に励んでいる。
ポイント700円分あるから、何買おう♪とか、
何百何十円の得に幸せを感じている毎日。

その入居者の彼が娯楽室で税理士と会っていて、
話がほぼ筒抜けに聞こえた。
今住んでいるサ高住の他に、駅の傍にマンションがあり、
他にも土地も持っていて、売ると億単位の金額になるという話。
経済的に楽ではない人で、他人を利用して
お金を得ようとするタイプの人間が聞いたら、
好き嫌い別にして、彼に近づこうとするかもしれない。
若い女がお爺ちゃんと結婚して…とかいう話のように。
でも、私は無欲のただのオバサン。
ポイ活で貯めた700円を喜んでいる私と
80代で億の資産を持つ人と、すぐそばにいるのに、
生きている世界が違うなと、ひしひしと感じていた。